ときどき、ニュースを見ているとご高齢の方の万引き事案の一つとして、「お金がなかったから、刑務所に行けばご飯も家もあるし楽だと思ってやった」「捕まりたくてやった」というケースがあります。
この、『捕まりたくてやった』という理由づけがあると、犯罪は成立しないのでしょうか。
万引きは、法律上「窃盗」という罪に該当します。
窃盗罪が成立するには、簡単に言いますと
①人の財産を盗んだという客観的な事実
②①に対する認識(主観面)
③不法領得の意思
が必要になります。(その他、いろいろと乗り越えなければならない要件はありますが、ここでは省略します。)
この③の「不法領得の意思」というのは、権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法にしたがって利用しまたは処分する意思のことをいうと解されています。
「捕まりたくてやったから、警察署にこれをもって自首しに行くつもりだった」という理由づけは、盗んだ物を自分で使用しようと思って行ったものではない、という主張、すなわち、不法領得の意思がないとの主張になります。
では、少し事例を考えて見ましょう。
某テレビ番組などで行っている万引きGメンによるケースを思い出してください。Aさんがスーパーに入ってきます。万引きGメンはAさんの動きから怪しいと思ってAさんにバレないようにつけてきます。Aさんは、万引きGメンの思惑通り、商品を自分のカバンにスッっといれます。そして、Aさんは、お店を出ます。万引きGメンが声をかけます。
Aさんは、万引きGメンに「盗んだでしょう」と聞かれ、「はい」と答えます。
Aさんは、お店の事務所に連れて行かれます。そこで、「なんでやったの。」と聞かれます。
Aさんは、「食べるものがなくて、これを盗んで警察署に持っていけば捕まって保護されると思ったからです。」と答えます。
Aさんは、商品を自分のカバンの中にいれて、盗んでいます(①の要件満たします)。そして、自分が、その行為をしていることを認識しています(②の要件も満たしています。)。
では、③の要件はどうでしょうか。Aさんの捕まるため、自首するためにやったという理由づけは認められるでしょうか。
結論としては、なかなか難しいと思われます。
なぜでしょうか。
まず、カバンに入れるということは、盗んだということをわからないようにするために行われたものと思われます。自分の犯罪を隠すために。
次に、そのままお店を出て行く行為をみてみましょう。出て行ったら、バレなかったら、Aさんはどうしていたでしょうか。警察に自首して行くことが確実といえるでしょうか。
これは近くに警察署があったか否かなど、そういう状況がなければ難しいと思いませんか。
「捕まりたくて、自首しようとおもってやった。」この理由づけを成り立たせるためには、その主張が確かにありそうだと納得できるような、いろいろな事情がないと認められにくいと思われます。
とはいえ、裁判例でこの主張が認められたケースもあります。ただ、盗んだものは、自分で到底使わないようなもの、交番との距離が極めて近かったこと、もちろん逮捕されたのは出頭した交番であったこと。などそういう特殊な事情があるようなケースでした。
そういうケースであれば確かに納得。といえるようなケースですよね。
刑法について、少しお勉強でした。
>監修 代表弁護士 森田茂夫