昨今、池袋や大津で発生した交通死亡事故が大きく報道されていますが、一方の事故では加害者である運転手が逮捕されず、他方の事故では加害者である運転手が逮捕されています。
いずれも複数人を巻き込んだ重大な交通事故であるという点は大きく変わりませんが、交通事故で加害者である運転手が逮捕される場合と逮捕されない場合の分かれ目はどこにあるのでしょうか?
捜査機関がある人を逮捕しようとする場合には「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」が要求されています。
「逮捕の理由」とは、ある人が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由を言います。
今回の2つの交通事故について、運転手が少なくとも自動車運転上必要な注意を怠り、それにより死傷結果が生じたことは客観的に明らかと思われるため、いずれのケースについても「逮捕の理由」はあったと評価できます。
「逮捕の必要性」とは、罪を犯したと疑われる人が逃げてしまったり、証拠隠滅をするおそれがあると判断される場合に認められます。
この要件は罪を犯したと疑われる人の職業や経歴、家族の有無、犯罪の重大さ等の諸事情を踏まえ、現実的に逃亡や証拠隠滅のおそれがあるかにより判断されます。
今回の2つの交通事故について、いずれのケースも証拠隠滅の可能性は高くないと思われる一方(事故車両が現存し、不特定多数の目撃者や防犯カメラ映像が存在している等)、犯罪の重大さから事後的に科されるであろう刑罰を避けるため姿を消してしまうという可能性を否定することはできないと思われます。ただし、可能性の残る後者について、逃亡を実行に移せるかという観点で考えた場合、事故後の運転手が自由に動き回れるか状態にあるか否かにより結論が分かれるということが考えられます。
池袋の交通事故の運転手は事故後受傷のため入院をしたと報じられていますが、大津の交通事故の運転手が事故後入院をしたとは報じられていません。その点から、前者は「逮捕の必要性なし」、後者は「逮捕の必要性あり」と判断された可能性があります。
それ以外にも、一旦逮捕をしてしまうと起訴までの時間的な制限が出てくるため、池袋の交通事故については入院中で満足な取調べができない状態で運転手を逮捕することを捜査機関が避けたという見方もあり得ます。