最近、某大学アメリカンフットボールチームの選手が、試合中に、相手チームのクォーターバック(QB)に後ろからタックルし、ケガを負わせたという事件が話題となっています。
しかもそれが、監督やコーチからの指示で行われた可能性があるということで、社会に大きな衝撃を与え、大きな関心事となっています。
被害者側はすでに被害届を提出したということですが、では、今回の事件で、そのようにケガを負わせた加害者の選手やその監督、コーチには、傷害罪又はその教唆(直接の加害者を唆せて犯罪をさせること)が成立するのでしょうか。
原則として、アメリカンフットボールはもちろん、ボクシングやレスリング、空手、柔道などのスポーツ競技は、プロであれアマチュアであれ、競技のルールを遵守して行われる限り、外形的には暴行罪や傷害罪にあたる行為でも、違法性がない(=正当行為)として犯罪は成立しません。
そこでは、これらの競技が健康を促進し国民に娯楽を提供するという有用性のほかに、被害者の同意もあり、行為が正当化されることになっています。それゆえ、ルールに従った行為から、たまたま傷害や傷害致死の結果が生じても、違法な行為の認識がないから故意がなく、場合によって過失傷害などの罪が成立するにとどまります。もっとも、故意に重大な反則行為を行った場合には、傷害罪や傷害致死罪などが成立することになります。
アメリカンフットボールにおいて、ディフェンス側の選手がオフェンス側のQBにタックルする行為自体は、ルール上問題はなく、むしろQBが味方の選手にパスなどをする前にQBを倒す行為は、「サック」と呼ばれ、称賛される行為です。
本件では、確かにQBを倒す行為ではありますが、映像等を見る限り、プレーが終わった後になされた行為であるため、故意の反則行為にあたることは間違いありません。
ですが、(決して好ましいことではありませんが)人間が行う以上、反則行為はどのスポーツでも日々起きてしまうものでもありますし、先ほど述べた理由から、反則行為があればそれが必ず刑事事件となるわけではありません。
そのため、本件事件について果たして傷害罪が成立し、立件されるのか否か、捜査機関としても難しい判断を迫られるものと思われます。
平成30年6月7日