平成30年3月10日、さいたま地方裁判所第4刑事部において、平成27年9月に起きたペルー人男性による小学生姉妹ら6名が殺害された事件について、強盗殺人罪に問われたペルー人の男性に対し、死刑判決(裁判員裁判)が言い渡されました。
この裁判では、弁護人からは、被告人には刑事責任能力がないとして、無罪を主張されておりました。刑事責任能力とはなんでしょうか。
ここで、刑事責任能力について解説します。
刑法第39条は、
1項で、「心神喪失者の行為は、罰しない。」と規定し、2項で、「心神耗弱者の行為は、その刑を減刑する。」と規定しています。
すなわち、心神喪失者に当たる場合には、刑罰を受けないことになりますし、心神耗弱者に当たる場合には、刑罰が必ず減刑されることになります。
では、どのような場合に、心神喪失者、心神耗弱者に当たるのでしょうか。
この点について、刑法には明確な定義がありませんが、判例では、心神喪失とは、精神の障害により、事物の是非善悪を弁識する能力がない者や、この弁識に従って行動する能力のない者が、これに当たることとされています。また、心神耗弱とは、精神の障害が、能力の欠如する程度には達していないが、著しく減退した状態をいうとされています。
ここでいう精神の障害には、統合失調症や躁うつ病などの精神病のほか、酩酊や情動のような一時的な意識障害も含まれると言われています。
裁判官の責任能力の判断のポイントは、「病的関係が犯行を直接支配していたかどうかが重視され、その結果、犯行が通常人の目から見て了解可能かどうか」です。
最高裁判決昭和59年7月3日決定は、統合失調症で精神病院へ入院歴のある被告人が殺人罪に問われた事案につき、被告人の病歴、犯行態様に見られる奇異な行動及び犯行以後の病状などを総合考慮すると、被告人は本件犯行時に精神分裂病(現在の統合失調症)の影響により、行為の是非善悪を弁識する能力又はその弁識に従って行動する能力が著しく減退していたとの疑いを抱かざるを得ないと判断しました。
他方で、今回の被告人に対する第一審判決(佐々木直人裁判長)は、被告人の犯行動機について「金銭に窮し、手っ取り早く金品を得ようとする現実的な欲求で、侵入窃盗や強盗の犯行を決意した動機は十分に了解可能」とした上で、犯行後の態様についても「罪証隠滅に意を払う冷静さのみられる行動をとっている。自己の行為が法に触れることは理解していたとみるのが相当」と述べ、完全責任能力を認めました。
この判決に対して、報道によれば、即日控訴がなされており、今後の裁判が注目される事件です。