覚せい剤取締法違反とは

 

・特別刑法である「覚せい剤取締法」は,特別の許可なく覚せい剤を所持することや使用することなどを禁止しています(覚せい剤取締法41条~44条)。最も多い類型は,覚せい剤自己使用や所持であり,それらの法定刑は「10年以下の懲役」です。

また,所持などの禁止されている行為を営利目的で行った場合には,法定刑が加重され,「1年以上の懲役(上限は20年)」(または1年以上の懲役及び500万円以下の罰金)となります。

覚せい剤取締法違反は,例年1万件を超える検挙数で,薬物犯罪の中でも大半を占めているのが現状です。

 

弁護活動のポイント

覚せい剤取締法違反により逮捕・勾留されている多くの事案では,覚せい剤が尿から検出されているとか,職務質問を受けて覚せい剤を所持していたことが明らかとなっており,争う余地はあまり残されていません。

それゆえ,覚せい剤取締法違反は,被害者がいないにもかかわらず,不起訴処分となる可能性がとても低くなっていると考えられます。

そこで,捜査段階における弁護活動としては,「第三者に無理やり打たれた」,「他人の物であり身に覚えがない」,「捜査に重大な違法が隠れている」などの事情がないか,ご本人から詳細な事実聴取をした上,そのような事情があれば,検察官に対して,犯罪が成立しない可能性が高いことを説得的に説明し,不起訴処分を目指すことになります。

一方,覚せい剤の使用・所持について争いのない事案の場合には,刑事裁判において本人の真摯な反省態度を示すことや,再犯可能性が低いことを説明することが何より重要となり,執行猶予付の判決を目指すことになります。具体的には,入手経路の断絶,ご家族の指導・監督,ダルクの入所,治療などの準備を進めることを示す必要がありますので,起訴後直ちに保釈を請求し,刑事裁判までの間にダルクの説明を受けるとか,通院を開始するなどの実績を積み重ねることが重要となります。

 

Q&A

⑴ はじめての覚せい剤自己使用や所持の場合,必ず懲役1年6月・執行猶予3年となりますか?

⇒覚せい剤が初犯の場合には,懲役1年6月・執行猶予3年という判決が多いのは事実です。しかしながら,事案に応じて,覚せい剤の量や使用方法,使用歴や前科前歴関係などが異なりますので,刑罰も一律ではありません。

 

⑵ 覚せい剤を無理やり打たれた場合にも自己使用罪が成立しますか?

⇒いいえ。

覚せい剤自己使用罪も故意犯ですので,覚せい剤の使用を認識しこれを認容したことが必要となります。したがって,覚せい剤を無理やり打たれた場合には,覚せい剤を使用することを認容しておりませんので,覚せい剤取締法違反は成立しません。

 

⑶ 覚せい剤取締法違反で執行猶予期間中に,再び覚せい剤で捕まってしまいました。執行猶予は諦めるしかないですか。

⇒いいえ。

1年以下の懲役を言い渡す場合であり,情状に特に酌量すべきものがある場合であれば,再度の執行猶予を受けることも考えられます(刑法25条2項本文)。ただし,実務では,覚せい剤の再犯事案で再度の執行猶予が付されるケースは決して多くはないといえます。また,前刑に保護観察が付されていたのに,その期間中,再び罪を犯した場合には,再度の執行猶予に付されることはありません(刑法25条2項ただし書)。

 

⑷ 一部執行猶予って何ですか。

⇒平成28年6月1日より施行された制度であり,実刑判決の一部に執行猶予とするものです。例えば,被告人を懲役2年に処す,その刑の一部である懲役4月の執行を2年間猶予し,その猶予期間中被告人を保護観察に処す,といった内容となります。つまり,懲役刑には変わりありませんが,その期間の一部が猶予され,早く社会復帰できる代わりに,保護観察を受けて,薬物更生のプログラムなどに参加することになると考えられます。