放火の罪について

1.放火をしても未遂に終わる可能性がある。
放火の罪ですが、行為の内容によっては、未遂罪で終わる可能性のある犯罪です。
目的物が「焼損」しなければ未遂罪となりますので、刑を減軽することができます(刑法43条本文)。
そして、「焼損」とは、火が放火の媒介物(着火剤など)を離れて、目的物に燃え移り、独立して燃焼を開始するに至ることを言いますので、例えば灯油をしみこませた紙に火をつけたが、家には燃え移らなかったというような場合は、未遂罪になります。

2.目的物によって刑の重さが違う。
放火の罪は、放火した目的物の種類によって刑の重さが変わります。

(1)現住建造物等放火罪
①人が日常生活の場所として日常使用している建造物、汽車、電車、艦船、鉱坑
若しくは
②人が現実にいる、建造物、汽車、電車、艦船、鉱坑
に放火する行為について、
死刑または無期もしくは5年以上の有期懲役という法定刑が定められています。(刑法108条)
なお、①の罪は、放火の当時、現に人がいなくても成立します。

(2)非現住建造物等放火罪
ア はじめに
人が日常生活の場所として日常生活しておらず、しかも現に人がその内部にいな い建造物、艦船、鉱坑に放火する行為について、2年以上の有期懲役という法定刑が定められています(刑法109条1項)。
イ 目的物が他人の所有物でない場合
ただし、目的物が他人の所有物でないときは、一般不特定の多数人が、目的物から延焼が生じてその生命・身体・財産に対し危害を感じるのに相当の理由がある状態(公共の危険といいます)に達しない限り、処罰することができません。なお、公共の危険が発生した場合の法定刑は6月以上7年以下の懲役です(刑法109条2項)。
ウ 目的物が他人の所有物でなくても、他人の所有物として扱われる場合がある。
目的物が他人の所有物でなくても、差し押さえを受け、物権を負担し(例えば抵当権がついている等)、賃貸し、又は保険に付したものである場合で、これを焼損したときは、他人の所有物として扱われます(刑法115条)ので、法定刑は2年以上の有期懲役です(刑法109条1項)。

(3)建造物等以外放火罪
ア はじめに
(1)、(2)以外の目的物に放火して「焼損」させ、(2)で説明した「公共の危険」が発生するような行為については、1年以上10年以下の懲役という法定刑が定められています(刑法110条1項)。
イ 目的物が他人の所有物でないとき
放火の目的物が他人の所有物でないときの法定刑は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金です(刑法110条2項)。
ウ 目的物が他人の所有物でなくても他人の所有物として扱われる場合がある。
目的物が他人の所有物でなくても、差し押さえを受け、物権を負担し(例えば抵当権がついている等)、賃貸し、又は保険に付したものである場合で、これを焼損したときは、他人の所有物として扱われます(刑法115条)ので、法定刑は1年以上10年以下の懲役です(刑法110条1項)。

弁護活動のポイント

放火の罪は法定刑が重く、特に、現住建造物等放火罪は法定刑として死刑若しくは無期懲役が定められていますので、裁判員裁判の対象事件となり、初犯でも実刑が原則です。

否認事件の場合には、捜査機関が主張する放火方法が可能であるか等を、証拠に照らして検討します。科学鑑定業者と協力して、現場から検出された油性成分や建物の残骸といった焼損物等の分析を行い、場合によっては燃焼実験等をすることもあります。

刑の減軽を求めるのであれば、被害者らに対して被害弁償を行ったり、精神科等の医療機関と連携して再犯防止策を講じたり、家族による見守りを実施するなどの再犯防止のための環境づくりをする等の活動を行います。