車を購入する際に、クレジット会社からお金を借り、その会社のために車を担保に供することがあります。車を担保に供する方法としては、車の所有権をクレジット会社に与えておくという方法(所有権留保といいます)があるのですが、そのような車をクレジット会社に無断で売却することは、横領罪に問われる可能性があります。

もっとも、所有権留保の車を別の人のための担保に供したというケースで、横領罪の故意を裁判所が否定し、横領罪の成立を認めなかった裁判例もあります(岡山地方裁判所昭和43年5月31日判決)。
このケースにおいて、裁判所は判決の理由として、所有権留保の契約では、「完済をする前は車について一切の処分をしてはいけない」と記載されていたが、車を購入した人は税金を払っており、実質的には所有者と同視でき、完済をすればいずれは自分のものになるのだから担保に供しても良いと誤信したとしてもやむを得ず、約束に反して無断で他人の物を処分するという横領罪の故意が認められないという趣旨のことを述べています。

しかし、車を担保に供するだけであれば、横領の故意は否定される可能性があるのかもしれませんが、所有権留保付きの車を売却したケースでも、横領罪の故意が否定されるのかは慎重な検討が必要です。
売却をすれば、その後に売却した人がローンの支払いをしなくなる可能性があるだけでなく、車の所在が分からなくなって、クレジット会社が車を回収して債権を回収することが困難になる可能性もあり、クレジット会社に多大な迷惑を掛ける可能性があるからです。
そのため、車を売却するケースでは、クレジット会社との所有権留保の約束に反することが容易に認識できたと言う理由で、約束に反して無断で他人の物を処分するという横領罪の故意が認められてしまう可能性があると考えます。

したがって、所有権留保付きの車を売却する行為は、横領罪が成立する可能性が否定できず、その売買のあっせんをすれば、盗品の有償処分をあっせんする罪(これも刑法の罪です)が成立する可能性がありますので、注意をして頂く必要があると考えます。また、これらの犯罪の成立を争うためには、売却をしてもクレジット会社に迷惑が掛からないと信じてしまったことについて、特別な事情(所有権留保という制度の仕組みが全く分かっていなかった等)が必要になると考えます。